帰宅

一度止まった心臓は動き出して、

呼吸も呼吸器なしでできるようになり、

一度は止まっていた脳も戻った。

泣きながら前足で宙を描く。

 

で、どうしますか。

さっきの話の続き。

帰るのか帰らないのか、治療するのかしないのか。

 

また同じように心肺停止するかもしれない。

今度も同じように戻れる可能性は低い。

というか戻れることは普通ほとんどない。

 

連れて帰ります。

会計をして、酸素ボンベをレンタルして、タクシーを呼んでもらって、

レンをタオルでくるんで、抱き抱える。

 

さっきまで泣きながら暴れていたレンは、

すっかりおとなしくなっていた。

家まではタクシーですぐ。

 

リビングのソファに寝かせて、酸素ボンベのチューブを鼻に当てて、話しかける。

えらいねぇ。すごいねぇ。がんばったねぇ。

かっこいいねぇ、レン。レンちゃん、大好きよ。

 

レンは時折苦しくなると、宙を描きながらぎゃーっと泣く。

でもほとんど、酸素チューブに鼻を押しあてて、

ふんふん言っている。

 

お姉ちゃんを目で追ってるね。

病院に駆けつけてくれた妹が言う。

そう?レンの目を覗き込む。

レンちゃんは強いねぇ、すごいねぇ、かっこいいね。

ありがとね、大好きよ、レン。

 

レンの黒目がこれでもかと大きくなる。

でも何も見ていない。顔の力が抜けている。舌先が白い。

レン!!!抱き上げる。力の抜けた全身がだらりとぶら下がる。

家に着いてから2時間が経っていた。

 

母を看取った時は、訪問診療に連絡をして、お医者さんが死亡を確認し、

葬儀屋さんが来て、身体を綺麗にしてくれた。

でも動物にはそんな仕組みは何もない。

 

レンの下半身はおしっこでぐっしょり濡れていた。

タオルで拭いてみるけれど、全然綺麗にならない。

きれいにしてあげたい。身体をちゃんとしてあげたい。

どうしたらいいんだろう。

いつもの動物病院に電話する。

 

スタッフの家族にコロナが出たとかで、

今日は休診ですが、来てくれれば、できることをします。

分かりました。今すぐ行きます。

 

タオルでくるみ、キャリーに乗せる。

歩いて10分の道のり。

 

先生に会って、この二日間に起きたことを話した。

話しながらぼろぼろ泣いた。

看護師さんは、身体を綺麗に拭いて、お尻に詰め物をして、

足型を取ってくれた。

 

状況を聞く限り、どうしようもなかったと思います。

でもすぐに病院に連れて行ったことも、

家で看取ってあげたことも、よかったと思いますよ。

 

泣きながら、レンを撫ぜる。

まだ暖かい。でもかたくなり始めた。

レン。早すぎるよ。聞いてないよ、こんなの。

あなたはまだ4歳なのに。

f:id:yuzunatsuri:20220219145801j:image