心肺停止

病院に付き、勝って知ったるICUへ。

どうせ待たされるのでトイレに入る。

思えばこの病院ではトイレばっかり行ってるなぁ。

なぜだか知らないけど、この病院に入るとトイレに行きたくなる。

 

レンは小窓の前に顔を置いて、ぐったりと寝ていた。

レン。

看護婦の視線も気にせず、膝をついて小窓から頭を突っ込む。

レンの鼻に自分の鼻を押し当てる。

レン。レン。がんばれ。

 

少し経つと、レンは身体を起こした。

でもにゃーにゃーとかなり大きく泣きながら、後退り、

こちらに背中を向けてしまった。

 

どうしたんだろう?

看護師に聞いてみても、分からない様子。

でもさっきはお母さんが来て嬉しそうでしたけどね。

 

先生に会いますか?と聞かれて、

呼ばれたから来たんだけどなと思いながら頷く。

では待合へ。ここにいてはいけませんか?

分かりました。

 

先生の準備ができたのでやはり待合へ。

そして今度はかなり待たされる。

呼び出して待たすってよく分からん。

 

お医者さんは30代くらいの男性だった。

レンちゃんは心臓が普通の猫ちゃんよりはるかに大きい。

心臓の壁が11ミリあり、これまで何事もなかったのはすごく不思議。

今、心臓はカリウムでいっぱいでもう限界。

腎臓の数値が悪いから、利尿剤は使えない。

もういつ心臓がとまってもおかしくない。

そんな内容の話を何度もやりとりしながら話す。

 

このまま家に帰れば夜までもたない。

でも病院にいても今すぐなくなるかもしれない。

コロナだから付き添いはできない。

治療を続けても乗り切る可能性は低い。

 

どうしたらいいのか分からない。

でもレンが闘ってるのに、私が諦めていいんだろうか。

連れて帰ってそれでいいんだろうか。

頭がぐるぐる回る中、もう一度レンに会わせてくださいとお願いをする。

わかりました、少しお待ちください。

 

待合で呆然としていると、名前が呼ばれた。

さっきの先生が叫ぶようにわたしを呼んでいる。

ICUに駆け込むと、さっきまでレンのいた酸素室は大きく開け放たれ空っぽ。

こっちです!

振り返り非常階段を抜けた先はオペ室。

 

文字通り手術台に横たわり、心臓マッサージを受けているレン。

取り囲む5〜6人の医療従事者たち。

レン!!!叫びながら身体をなぜる。

聞いたことのない声が、自分の口から漏れる。

みんな口々にレンに呼びかける。

 

今、心臓が止まっています。

マッサージしていますが、このまま戻らないかもしれない。

と、説明を受けたような気がする。

 

心臓が動き出しました!でも呼吸ができていません。

呼吸は呼吸器で代用できます。

でも脳の反応がありません。

瞳孔が開いています。

 

テレビドラマみたいだ。

呆然と俯瞰であたりを眺める自分。

とても現実とは思えない。